
リアリティってなんだろう
「昔一週間断食をしたことがあります。飲まず食わずの一週間はとてもつらく、何度も何度も挫折しかけました。なんとか無事に終え、一膳のご飯と味噌汁を用意してもらいました。それを口にした瞬間の感動は言いようがなく、私は改めて食べ物のありがたみを感じました」
小学生の頃、テレビを観ていたら、某知性派俳優が出てきてこんなことを語っていた。子ども心にそんな状況で食べるご飯はさぞかしうまいんだろうな、と感動した。以前自分が登山をして、その途中で飲んだ水のことを思い出した。だが、一緒に観ていた父親が「一週間も断食したら胃が弱って、食い物を受けつけるわけねえじゃねえか。吐いちまうよ」と文句を言い、一気に気持ちが冷めた。太田は断食したことはないけれど、多分父親が言うことが正しいのだろう。つまり、この俳優はそれっぽい顔をしながら嘘を言ったのだ。もちろん俳優なんだから、演技でそれっぽく見せるのは朝飯前だろう。でも確かその時はドラマじゃなかったような気がする。こんな風に、真偽の判断が全くつかないのがテレビの怖いところだ。
でもまあ、嘘かどうかは別として、そのテレビ放送を観た人が、一瞬でも感心したり、空腹感を覚えたりしたら、製作者の意図通りというか、作品として成功なのである。
リアリティというのは嘘を本当っぽく見せる技術である。その話が嘘か、本当かというのは実はそれ程重要ではない。大事なのは、本当っぽいか、ということである。この場合、話の内容と俳優の演技力で、実際は挑戦し終えた後は胃が弱り、お粥くらいしか食べられないという断食の真実を越えてしまったのだ。
もうひとつ別の例を挙げる。
村上春樹の著作の中に、読者とのメールのやりとりをまとめた本があって、中にこんなのがあった。
「以前、友人に本を何冊か借りたが、全く読まずに部室のロッカーに放り込んでおいた。そうしたら、梶井基次郎の『檸檬(れもん)』にカビが生えた」
この読者のメールに著者は「『檸檬』にカビが生えるなんてリアルだ」と答えた。この場合はさっきの断食の話とは真逆になる。まず、『檸檬』にカビが生えた話は本当である。もちろん投稿者が嘘をついている可能性はあるけど、紙だってジメジメしたところに置いておけば、カビくらい生えるだろうから、本当の話と決めてしまって問題はない。当然『檸檬』も例外なく、カビが生える可能性はある。ところがそもそも檸檬はレモンであって、果物である。果物は放っておいても腐るし、カビも生える。つまり、つまりこの本は『檸檬』という果物の名前のタイトルだからこそ、カビが生えてしまったような気がしてくるのだ。まるで落語のようである。
だから、この話を読んだとき、太田も声を出して笑ってしまった。本当かよ、と心の中で突っ込みを入れた。話が出来すぎていて、作り物めいている。出発点は創作ではなくても、うまくできすぎると、擬似的な創作となるのだ。
人を惹きつける話を作るのにリアリティはとても大切だけど、リアリティを出すためには、少々の嘘っぽさが必要なんだね。
by 太田ルイージ
コメント
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