
マクドナルドのスマイル
昔、マクドナルドのメニューに”スマイル”があったのは、ご存知でしょうか?
店員の頭上後方のパネルに、ハンバーガー、ポテトなどのメニューが並んでいる。そのすみっこに、”スマイル”と書かれていた。しかも価格は0円だった。
ある日そのことが太田家の話題となった。マクドナルドのメニューに”スマイル”というのがあるが、あれは何なんだろう。メニューにあって、しかも価格が¥0となれば、タダでくれるのか。つまり店員さんが笑いかけてくれるのか?その疑問に答えを出すべく、太田の母親が、マクドナルドに行ったときに、試しに注文してみる、ということになった。
普段と同じように、マクドナルドへ行き、ハンバーガーを注文する。そして最後に
「あのー、あとスマイルください」
と言う。当たり前のように言ったほうがいい。こっちが照れると、聞き流される可能性がある。はっきり言って、かなり勇気の要る行為だ。しかし、”スマイル”とはなんぞのものや?という探究心が羞恥心に打ち勝ったのである。
結果として、太田母がスマイルの注文をすると、なんとカウンターにいた女性店員が全員集まり、まるで記念写真でも撮るかのようにみんなで、ニコッとしたそうである。これは予想以上の結果である。メニューに書かれた「スマイル・¥0」は決して嘘ではなく、本当に購入することが出来たのである。これに味をしめた太田母は、続いて別の店でもスマイルのオーダーをした。すると今度は、オーダーを受けた店員のみが、恥ずかしそうに笑顔を見せてくれたそうである。スマイルのオーダーへの対応は、店舗によってそれぞれのようである。
残念なことに、太田は2回の実験の現場に、居合わせることが出来なかった。まだ子どもだったので、親がいなければ、一人で買いに行くこともできなかった。いつかは自分でも”スマイル”を注文したい、と思っていたが、いつの日か、マクドナルドのメニューから”スマイル”は消えてしまった。もしかしたら全国で冷やかし半分でスマイルを注文する人が増え、「スマイル100個!」とか無茶苦茶な注文をする人が出てきたせいなのかもしれない。
でも、今になって考えてみると「スマイル・¥0」というのは、シャレのようなものだったのだろう。スマイルがタダ、というのはつまり、店員はいつでも笑顔で接客してますよ、という意思表示なのだ。本場のアメリカなら、すぐにジョークと判断して笑い飛ばすのだろう。でもクソ真面目な日本人、太田の家族のような人は、食卓で「おい、マクドナルドでスマイルが売ってるぜ、しかも0円で!」と興奮気味で語られてしまうのだ。
今はそんなことをする店なんて、日本中探してもないだろう。でもそれでもその頃は”スマイル”が売られていて、本当に買うことが出来たのだ。
それにしても自分の目で見たかったなあ。
by 太田ルイージ