ひとり陰湿

早朝バイトと春の訪れ

20代の前半、コンビニで早朝のバイトをしていた。仕事としてはそれ程大変なものじゃなかったけど、とにかく朝起きるのがつらかった。さらに真冬となれば拷問に近いものがある。車で通っていたのだが、フロントガラスが凍ってしまうので、出かける10分前にはエンジンをかけなければならない。それだけの時間的余裕があればいいのだが、寝坊してしまうときもある。あるときは窓から顔を出して車を運転した。顔に当たる風を感じながら、ここまでして行く価値のあるバイトなのかな、と思ったりした。

寒さに加えて、真冬は暗い。車のライトをつけてバイト先に向かうのだが、これがより一層、早朝バイトの過酷さを引き立てる。起きるのに50%の気力を使い、バイト先に行くまでに45%の気力を使い、残りの5%で仕事をするような感じだ。でも、そのうちに、少しずつ日が長くなり、寒さも和らいでくる。そして、ある朝ライトをつけなくても、運転できるようになった。春がきたんだ、ということがわかった。こんな風に季節を体で感じたのは初めてだった。初めてだったし、何故か気持ちも弾んだ。

大げさだけど、まだ世界は死んじゃいなかったんだ、と思った。季節の移り変わりなんて、当たり前のことだし、そんなことでテンションが上がってしまう自分が、なんだか滑稽だった。でもまあ、悪いことではないよね。

それをきっかけにして、太田は季節の移り変わりに注意を払うようになった。そうすると、子どもの頃に感じたのとは、全く違った印象で、季節を感じられるようになる。夏休みの終わりが、夏の終わりじゃないんだね、とか。

(2009年1月01日更新)

by 太田ルイージ

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