ひとり陰湿

ドキュメント

この夏に「崖の上のポニョ」を見に映画館へ行ったけど、その後にテレビで制作ドキュメント番組がやっていた。結構おもしろかったけど途中でどうしても納得できない箇所があった。

それは映画のラストの方のシーンが決まらなくて、監督が悩むという場面だ。何が気にくわないかと言うと、別に悩んでいるのが気にくわないのではなくて、それをナレーションが「果たして締め切りに間に合い、無事映画は完成するのか?」みたいなことを言ったことだ。もちろんナレーションが言っているのはデタラメで、テレビ局の演出にすぎない。作っているのは映画のプロなんだから、締め切りに間に合わないなんて選択肢は、初めから存在しない。それを知っているくせに、軽々しく間に合わないかも!と悲壮感たっぷりに言っちゃうんだから、どうしようもない。高校の文化祭のドキュメントじゃないんだぞ、と言いたくなる。テレビの制作者は、そういうハラハラするようなのがないと、駄目だと思っているのだ。

監督はシーンが決まらないのではなくて、決めたくなかったんじゃないかな、と太田は思う。締め切りギリギリまで、物語にどっぷりつかっていたかったのた。そして周りのスタッフもそれがわかっていて、ぎりぎりまで悩ませてあげよう、とスケジュールを調整したのだ。ちょうど子どもを、暗くなるまで公園で遊ばせる母親みたいに。物語の完成がある種の別れだというのは、素人の太田にもわかる。

そういうことを観ていて感じたのだから、番組自体はすごくよかった。絵コンテが見られたのもよかった。あなたの描く鳥は飛んでいない、とマジで怒る監督もよかった。だからなおさら、そのハラハラ演出が気にくわなかった。ありのままを伝えてくれればそれで十分だと思う。制作中の苦労と作品のクオリティは、全く無関係なんだから。

(2009年1月01日更新)

by 太田ルイージ

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