
オーストリア
小学校2年生の時、社会の時間に先生が大きな世界地図を黒板の前に広げた。そして知りたい国の場所を教えますよ、と言ってきた。指された人が順番に国の名前を言って、先生がその国の位置を指示棒で指す、という授業内容だった。
太田としてもどこか聞いみたかったが、これだけみんなが発言したがったら、指されても一回だな、と思いどこの国にするか慎重に考えた。せっかく発言するならみんなをあっと言わせたい、と考えオーストリアを聞いてみることにした。
オーストリアならオーストラリアと似ているので、多くのクラスメートはそんな国があることすら知らないだろう。太田も名前は知っているが、場所までは知らない。もしかしたら先生も位置までは知らないかもしれない。そんなことを考えながら手を挙げていると、やがて自分の番がきた。
自信に満ちあふれた声で、「オーストリア!」と言う。さあ、オーストリアという国はどこなんだ、と先生の指示棒を見つめていると、先生は何でもなさそうに、「はい、オーストラリアはここ!」と南半球のオーストラリアを指した。
一気に血の気が引いていくのが感じられた。違う、俺が言っているのはオーストラリアじゃなくてオーストリアなんだ、と否定したかったが、すぐに他の生徒の番になり、もはやなんの弁解もできなかった。オーストラリアなんてあんなでかい国なんて、誰だって知っている。みんなの注目を集める、思惑は見事に打ち破られてしまった。
しかし、今でも気になるのが、先生はあのとき本当にオーストラリアと聞こえたのだろうか?ということである。もしかしたらオーストリアという国を知らなかったのかもしれない。
そして太田は、どうしてこんなことを今でも憶えているのだろうか。不思議だ。
(2009年2月03日更新)
by 太田ルイージ